好きかもしれないあなたへ

寒い、冬の、帰り道。
わたしはいつも、あなたの吐く白い息を追いかけていた。
言葉が空気に溶ける、その瞬間を見届けるのが、とても好きだった。

温かい、春の、桜並木。
わたしはいつも、あなたの白い指先を見つめていた。
花びらに触れる、その温度を想像するのが、とても好きだった。

暑い、夏の、空の下。
わたしはいつも、線香花火の明かりを頼りに、あなたの横顔を見ていた。
穏やかに揺れる炎に、目を細める仕草が、とても好きだった。

紅い、秋の、部屋の前。
わたしはいつも、あなたの広い背中を眺めていた。
迫る夕暮れを惜しむ、静かな溜め息が、とても好きだった。

季節は移ろい、あなたはあなたの人生を。
月日を重ね、わたしはわたしの人生を。
離れ離れになって、気がついたこと。
長い長い電話のあとには、いつも思い出す。
恋とは呼べなかった頃の、小さなあれこれ。
今は形を変えて、温度を増して。
今、ここにはいないあなたを、思い描いている。

陽明

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